浅葱の桜
私に目配せをした菊姉ぇ。嫌な、予感がする。
聞きたくない、怖いよ……っ!
「逃げなさい。今すぐ」
「っ!」
体が強張る。
だって、それじゃあ、菊姉ぇは? 見殺しにしろって。そう言いたいの?
「私の身勝手な我儘に付き合わせてごめんなさいね。
でも、許して。……ここでの楽しい生活はかけがえのない物だった筈よ」
そっと手の内に滑り込ませられた物。
「逃げなさいっ、早く!」
「逃げさせると思ってるのかよっ!」
菊姉ぇの背中から生える刀。妖しく光る刀身がやけに恐ろしい。
「かはっ」
「菊姉ぇっ!」
近寄ろうとした私を菊姉ぇは片手で押さえた。
口から血を吐きながら刀を押さえ込むその姿に何も出来なくなってしまった。
どうして、そこまでして、私を助けようとするの?
「私の大切な……妹。生きて」
ボタっとまた溢れ出した涙。刀を握り締めると後ろも振り返らずに走り出した。
「頑張って。頑張って、生きなさい。あなたの名前のよう美しい櫻のように……!」