浅葱の桜
「忍び込んで」
ニヤっと不敵に口元を歪めた彼。
思わず後ずさるけれど、すぐに柱に背中がついた。
「ようやく迎えに来れたな。姫様」
「迎えなんて……頼んでません!」
放って置いてくれるならそれで良かったのに。
「そりゃあ残念だ。でも、抵抗せずに付いてきてくれるよな?」
「っ!」
「姫様がいったんだろ? 逃げも隠れもせずに居てくれると」
あれはつい出た売り言葉に買い言葉だ。特に深い意味はないんだけど、それを否定することに抵抗があった。
「逃げようなんて思っちゃいけねぇぜ? その瞬間、屯所内にいる新撰組の隊士は俺が殺す」
「っ……!」
「実際、それだけの技量を俺は持っているからな」
その言葉を否定できないのは沖田さんとの戦いを見ているから。
沖田さんと互角、それ以上の力を持った彼ならば、最も簡単にこの場所を血の海に変えることができるんじゃないかと想像してしまった。
あの。花鳥座のみんなのように。
それだけは絶対に嫌だ。もう二度とあんな思いはしたくない。
大切なものの命を眼の前で手のひらからこぼれ落とすのは一度だけで十分だ。
覚悟を決めるしか、ないか。
私は出入り口がわに立っている彼を見上げる。
「……いいでしょう。ついていきます」
肩から力を抜いた様子の彼を睨みつけるようにして見上げた。
私にはまだ疑問がある。
「あなたは……私の父は、どこの者なのですか」
ずっと気になっていた。
生まれた時の記憶も、両親の顔も覚えていない私は一体どこの誰なのだろう? と。
それがもし、私の想像している最悪のものであるのなら……。
どちらにしてもここにいることは叶わないのだから。
「そんな事を聞いてどうするだ?」
「自分の罪を……確認したいんです」
私の想像はほぼ確信だと思っている。
今まで逃げ回っていた菊姉ぇたち花鳥座の巡行先に無かった場所であり、池田屋事件の際にあそこにいる事のできるのと言えば。
「私は、長州の出身なのでしょう」