浅葱の桜
「その通りだ」
覚悟してた内容なのに、やっぱり衝撃で肩が震える。
これで、私がこの場に留まることは出来なくなった。
まだ二月程度しかここにはいなかったけれど、その事実に目頭が熱くなる。
二度と、彼らに会うわけには行かない。次にあった時は敵同士だ。
「早く動け。この場に留まり続けるわけには行かないんだよ」
グッと襟首を引っ張られて襟が開く。
「そんな事しなくても……動きますよ」
体が重い。
早くこの場を離れないと行けないのに、まだ沖田さんに会いたいと思ってしまう自分に嫌気がさす。
視界に入るのは前に立つ彼の影と、畳に落ちた染みだけ。
痺れを切らしたようすの彼が私の体を持ち上げた。
「手のかかる小娘だな」
いっそ斬ってしまう方が楽なのにと漏らす声がきこえた。
そうだよ。いっそ斬り殺してくれれば、こんな苦しい思いを抱えたまま生きることもないのに。
「ごめんなさい……っ」
身よりもなくて、身分さえ証明出来なかった私を置いてくださったこの場所。
花鳥座と全く変わらない温かな場所が好きだった。
そんな皆を裏切る結果になってしまった私を皆はどう思うんだろうな。
傷つけてしまって申し訳ない。
最初に足を踏み入れた時と同じく、私は彼に抱えられた状況で屯所を去ることとなった。
生きている事がこんなに辛いなんて思わなかった。
こんなに自分が生まれたことを恨むなんて。
何で長州の家に生まれてしまったのか。
そうでなければもっと私はここに居続ける事が出来たのかと考えると悔しくて。
口の中に血が滲みだしても強く噛んだ力を緩める気にはなれない。