『それは、大人の事情。』【完】
すると不思議そうな顔した一人の母親が「あの……沙織ちゃんのママは?」と聞いてきた。
「えっと、暫くの間、私が付き添う事になりまして……宜しくお願いします」
遠慮気味に頭を下げる私に、微妙な視線を向ける母親達。彼女達が変に思うのも無理はない。だって、沙織ちゃんは私を完全に無視しているんだもの。
なんだか居たたまれない……
ようやく到着したスクールバスに沙織ちゃんを乗せ、逃げる様に駅へと向かう。
なんだか凄く疲れた。こんな生活が暫く続くのかと思うと憂鬱になる。でもすぐにそんな事考えちゃいけないと弱気な自分に喝を入れた。
子供がいる人は皆同じ事してるんだ。私だって頑張れば出来ない事はない。
会社に着き、朝礼で凛々しい真司さんの姿を見ると、その気持ちは更に強くなる。
私は愛されているんだから……この人の妻になるんだから……仕事も家事も沙織ちゃんの世話も、全て完璧にこなさなきゃダメ。
パソコンを立ち上げると溜まっていたメールを確認し、仕事を始める。でも寝不足のせいか集中力は長くは続かずディスプレイが霞んで見える。
「梢恵、ランチだよ。今日はパスタなんてどう?」
「あ、うん」
仕事が一段落したところで佑月とパスタ専門店へ向かい混雑した店内でようやく席を確保すると、崩れる様に椅子に座り込んだ。
「ねぇ、梢恵、顔色悪いけど、大丈夫?」
「うん……ちょっと色々あってね」