『それは、大人の事情。』【完】
「居ないって?卒業しちゃったって事?」
「はい、殆どの人は卒業したんですけど、一番優秀だった子は専門学校を辞めちゃったから……彼、才能あって期待されてたのに、半年で退学してしまって……
その彼、ハーフのイケメンだったから彼を狙ってた女子も多かったんですよ。退学するって分かった時、写真学科は、ちょっとしたパニックでした」
ハーフのイケメンはどこでも人気なんだ。と苦笑いを浮かべた時、ある記憶が鮮明に蘇ってきた。
まさか……
それは一年前、私は佑月に誘われ理央ちゃんの作品が展示されてる写真展に行った。その時、一枚の写真の前で足が止まった。
窓硝子越しに写された傘を差した女性のモノクロ写真。そう、白石蓮の押し入れの中にあったあの写真だ。どこかで観たと思ったのは、気のせいじゃなかったんだ……
「ねぇ、理央ちゃん、そのハーフでイケメンの子って、なんて名前?」
「名前……ですか?」
「そう、その子の名前、教えて?」
理央ちゃんが不思議そうな顔をして私を見る。
「白石蓮君ですけど……それが何か?」
「えっ?白石蓮って、あの清掃会社の子?」
佑月も気付いたみたいで、目を見開き興奮気味に身を乗り出す。
やっぱりそうだった。あの子は理央ちゃんと同じ専門学校に通っていたんだ。そして私は、一年も前に彼の作品に出会っていた。
ちょっとした偶然なのに、なんだか凄い事の様な気がしてテンションが上がる。