『それは、大人の事情。』【完】

「お姉ちゃん、清掃会社の子って、どういう事?」


理央ちゃんも別の意味で驚いている。佑月が今ウチの会社のビルで清掃員をしてるって説明すると、理央ちゃんは暫く呆然としていた。


「どうして? 学校じゃ、モデルにスカウトされたって噂を聞いたよ。お父さんの居るイギリスに留学したって言ってる人もいた……まさか清掃会社に勤めてたなんて……」


ランチそっちのけで白石蓮の話題で盛り上がっていると、理央ちゃんが突然「そうだ!」って声を上げる。


「お姉ちゃんと梢恵さんにお願いがあるんだけど……」

「何?」

「白石君に聞いて欲しい事があるの。去年、写真展に出展した彼の作品のモデル。誰だったか聞いてくれないかな?」

「モデルを?」


私と佑月が顔を見合わせ首を傾げる。理由を聞くと、同じ写真学科の学生が、白石蓮にあの写真のモデルは誰だと聞いたそうだ。すると彼は、好きな女性なんだと答えたらしい。


それを知った女子生徒が騒ぎ出し、まるで犯人探しみたいな状態になったのだと。でも、そのすぐ後、白石蓮は専門学校を退学してしまったから結局、それが誰か分からずじまい。


「今でも時々その話題になって、あれは誰だったんだろうて……だからお願い! 白石君にモデルの彼女の名前を聞いてきて!」


白石蓮の好きだった女性か……


佑月は「今更、そんなの聞いてどうするの?」って呆れていたが、理央ちゃんの顔は真剣そのもの。仕方なく聞いてみると返事してしまった。


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