『それは、大人の事情。』【完】

さて、困った……


式場を出た所で理央ちゃんと別れた私と佑月は、駅に向かって歩いていた。


あれから理央ちゃんに何度も頭を下げられ、一応、白石蓮に聞いてみると返事はしたものの、気が重い。だって、彼とは完全に疎遠になってたから。


「佑月が彼を誘ってくれない?」

「はぁ? なんで私なの? 梢恵の方が親しいじゃない。それに、私は一人で結婚式の準備しなきゃいけないからそれどころじゃないよ」

「私だって……平日は仕事終わりに沙織ちゃんを学童に迎えに行かなきゃいけないし、家を空けるなんて無理だよ」

「だったら理央にそう言えば良かったのに。別に気にする事なんてないからさぁ~理央の言った事は無視すればいいよ」


なんて冷たい姉だろうと呆れてしまう。佑月は簡単に言うけど、理央ちゃんは真剣だった。無視するなんて可哀想で出来ない。


どうしようか……


迷いながら駅のホームに下りるエスカレーターの前まで来て、ふと立ち止まる。先にエスカレーターに乗った佑月が振り返り「梢恵、どうたの?」と声を掛けてきた時には、私の気持ちは決まっていた。


「ごめ~ん、ちょっと寄ってきたいとこあるから……」


私が乗った電車は、つい最近まで利用していた線。そう、私は真司さんのマンションではなく、あのカフェに行こうとしていた。


この駅で降りるのは、例の洗濯物の一件以来だ。ついこの間のはずなのに、もう随分前の様な気がする。


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