『それは、大人の事情。』【完】
「この前は、ごめん」
彼が私に詫びる理由が分からない。謝らなければならないのは……多分、私の方。
「どうして君が謝るの?」
「んっ? だって、あんな事で怒鳴ったりして、大人げなかったなぁ~って思ってさ」
白石蓮の言葉を聞き、思わず吹き出してしまった。
「ヤダ、何言ってんの?まだ二十歳にもなってない君が大人げないなんて……」
決してバカにしたワケじゃないけど、真剣な顔でそんな事言うから、妙にツボってしまい笑いが止まらない。
「酷いなぁ~やっぱ、俺の事、子供だと思ってんだ」
「当然でしょ? だって、子供だもん」
すると白石蓮が、長い指に巻き付けたダークグレーの髪をサラサラと解放しながら独り言の様に呟く。
「でもあの時、その子供相手に嫉妬してたよね?」
「嫉妬? ……いつの事言ってるの?」
「ほら、俺が受付嬢と話してた時、梢恵さん凄い目で俺の事睨んでた。あれって、嫉妬してくれてたんんじゃないの?」
えっ……
痛いところを突かれ、私の顔から笑みが消える。
あの時、この子は受付の娘と楽しそうに話しながら私の事を冷静に観察してたんだ。
「何言ってるの? バカバカしい。睨んでなんかないわよ。勘違いしないで」
口ではそう否定したものの、心の中では、あれは嫉妬だったのかもしれないと動揺していた。
私は、あの若い受付の娘に嫉妬していたんだ……でも、それを素直に認めるワケにはいかない。うぅん、認めちゃいけない。