『それは、大人の事情。』【完】
✤ それぞれの事情
忙しく働く白石蓮を横目に、私はスマホを握り締め何度目かのため息を付く。
遅くなるって真司さんに連絡しなきゃ……でも、彼以外の男性と食事に行くってのが後ろめたくて気が重い。
あぁ! そうか! 別に正直に言う必要なんてないんだ。それに、白石蓮と二人っきりで行くワケじゃないし、あくまでも理央ちゃんの付き添いとして行くだけ。
そう思ったら気持ちが楽になり、今まで躊躇っていたのが嘘の様に、勢いよくディスプレイの上で指を滑らせていた。
「あの……真司さん、急で悪いんだけど、佑月の妹の理央ちゃんに夕飯誘われたの……行ってもいいかな?」
白石蓮の名前を出さず低姿勢でお伺いを立てると、意外にもあっさり『いいよ』ってお許しが出た。
『こっちもまだ、動物園に居るんだ。帰りに食事して帰ろうって言ってるから梢恵もゆっくりしてくればいい』
「そうなんだ。じゃあ、行ってくる」
親子水入らずで動物園に行ってたのか……でも、あの真司さんが動物園だなんて、なんか笑える。沙織ちゃんの為ならそんな所にも行くんだ。やっぱ、父親なんだな。
クスリと笑いスマホをテーブルの上に置くと、大きく伸びをして澄んだ空気を胸いっぱい吸い込んだ。
こんなにのんびりしたのは、いつ以来だろう? この一週間、結構ハードだったし、たまには息抜きしないと続かないよね。今日は久しぶりに飲んじゃおうかな?
なんて思いながらオープンテラスでファション雑誌を読み時間を潰していたんだけど、さすがに飽きてきた。
「六時まで、まだ二時間もある……」