『それは、大人の事情。』【完】
十分癒され時間を持て余した私は、オープンテラスから店内のカウンターに移動した。
「オーナー、まだ時間があるから、ちょっと話し相手になってくれない?」
土曜日だというのに、今日はやけにお客さんが少ない。オーナーも暇そうにグラスを磨いている。
「どうぞ~梢恵ちゃんとゆっくり話すの久しぶりだよね」
「うん、私、引っ越したから……なかなか来れなくて……」
「蓮に聞いたよ。彼氏と同棲してるそうじゃない」
「あ……そう。彼に聞いたんだ」
若い女性客のグループと楽しそうに話してる白石蓮をチラッと見て苦笑いすると、オーナーも彼の方を見て目を細める。
「蓮がバイトするようになって、アイツ目当に来てくれる女性のお客さんが増えてね。あの娘達もそうなんだよ」
「ふーん……彼、ハーフでイケメンだから、どこに行ってもモテモテだね」
ホントにそうだ。ウチの会社でも、理央ちゃんが行ってる専門学校でも、白石蓮は人気者。そんな甥っ子がいて、オーナーも鼻が高いだろうと思ったのに、なぜか浮かない顔をしてる。
「確かにモテてるみたいだね。でも蓮は、自分の容姿がずっとコンプレックスだったんだよ」
またオーナーのお得意のジョークだと思い、その言葉を豪快に笑い飛ばす。
「まさか~あんな綺麗な顔がコンプレックスだなんて、世の中の男性が聞いたら怒るよ?」
するとオーナーが急に前屈みになり、小声で話し出した。