『それは、大人の事情。』【完】
「そんな時、蓮が姉の遺品の中にあった写真集を見つけてね、えらく感動したそうで、初めてカメラが欲しいと我がままを言ったんだ。
で、蓮の誕生日に安いカメラをプレゼントしたら凄く喜んでくれて、暇さえあれば写真を撮っていたそうだよ」
そして高校を卒業した蓮は、写真の専門学校に行くと決め、奨学金を借りてオーナーを頼って上京した。けど、専門学校に入学して半年が経った頃、地元の親戚から電話があった。
「僕の母親が倒れて……蓮と一緒に実家に帰った時には、もう……」
「えっ……」
「蓮はおばあちゃん子だったからショックだったんだろうね。ずっと母親の横に座って泣いてたよ。そして、葬儀が終わった後、皆で食事をしていたら酒癖の悪い親戚の男性が蓮の父親の話しを始めて……
アイツ、自分の父親が姉を捨てたと思ってたから父親を憎んでいたんだ。その憎い父親の仕事が、自分が憧れてたいた写真家だと聞かされ呆然としてたよ。そして蓮は、カメラを捨てた」
「だから専門学校も辞めたの?」
「うん、もう二度とカメラは持たないって言ってたよ。僕は写真の事はよく分からないけど、蓮の撮る写真が好きだった。
アイツには、写真家の父親から受け継いだ才能がある。その才能を埋もれさせたくないって思っているんだけどね、本人にその気がないから……残念だよ」
悔しそうに唇を噛むオーナーを見て、理央ちゃんの言葉を思い出していた。
理央ちゃんも言ってたな。彼には才能があって、期待されてたって……