『それは、大人の事情。』【完】

オーナーの話しを聞き、白石蓮という人間の印象が大きく変わった。


今までは、女の子にチヤホヤされていい気になってるチャラ男だと思っていたけど、実際は、父親を憎む余り自分の大切な夢を捨てた可哀想な子。


「あ、ごめんね。なんだか暗い話しになっちゃって……でも蓮のヤツ、ここで梢恵ちゃんと会ってからなんだか明るくなった気がしてね。僕としては、それが嬉しくて……

梢恵ちゃんって、どことなく僕の姉に似てる気がするんだよね。もしかしたら蓮もそう思ってるのかもしれないなぁ」

「私、彼のお母さんに似てるの?」

「あぁ~ごめん! そんな事言ったら迷惑だよね」


慌てて謝るオーナーに、気にしてないって言ったけど、ホントは、内心穏やかではなかった。


母親か……


でも、そう考えると納得出来たりする。私がどんなに拒否してもめげずに絡んでくるのは、私に母親を求めていたから?


彼は私を女性として見てたワケじゃないんだ。白石蓮にとって、私は母親なのかもしれない……


「―――なるほど……」

「んっ? 何がなるほどなの?」


不思議そうな顔をするオーナーに、引きつった顔で「なんでもない」と言うと、暫し落ち込む。


仕方ないよね。十歳も年上なんだから……でも、母親だなんて、なんかショックだな。


どんよりした気分で待つ事二時間。ようやく六時になり、私と白石蓮は理央ちゃんと待ち合わせた居酒屋へ向かった。


タクシーの中で何気に体を密着させてくる白石蓮。以前の私だったら文句の一つも言っていただろう。けど、"母親"かと思うと、何も言う気になれなかった。


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