『それは、大人の事情。』【完】
「理央ちゃん。こんなとこで寝ちゃダメだよ」
彼女の肩を揺するが、全く反応がない。
二十歳になったばかりで、まだ飲み慣れていない理央ちゃんが、あんなハイペースで飲んでたら潰れるよね。きっと、白石蓮に会えた事が嬉しくて調子に乗って飲んじゃったんだ。
ちゃんと見ててあげれば良かったと反省していたら、膝の上の手に何か熱いモノが触れた。
えっ……?と思った時にはもう私の右手はその熱いモノに覆われていた。それが隣に座ってる白石蓮の火照った左手だって事はすぐに分かった。
「ちょっと、何してんのよ?」
「いいじゃん。森下、寝てるし……」
平然とそう言う彼も酔っているのか、薄いブルーの瞳が潤んでる。そのどこか寂し気な表情にドキッとして慌てて握られている手を引っ込めようとしたが―――
「ダメだよ……放さない」
イジワルな甘い声が耳をくすぐり、更に強く私の手を握る。そして、もう片方の手が肩にまわされた。
「やめて……私には好きな人がいるの。同棲してるの知ってるでしょ?」
彼の顔は、もう数センチで私の唇に触れるというところまで迫っていた。
「同棲してるのは知ってるよ。梢恵さんのマンションの前で部長さんに会った時、そう言ってた。でも、結婚してるワケじゃないよね?」
「そうだけど、結婚を前提の同棲だから……」
必死で白石蓮の手を押し返したんだけど、抵抗虚しくその何倍もの力で引き寄せられる。
「梢恵さん、あの部長さんに利用されてるんじゃないの?」
「えっ……」