『それは、大人の事情。』【完】
―――結花ちゃんのその一言で、事態は一気に収束に向かった。
結花ちゃんが言うには、怪我をさせてしまった芽衣ちゃんが、沙織ちゃんにお母さんの悪口を言いってからかっていたそうだ。でも沙織ちゃんはそれを無視していた。
すると今度は、沙織ちゃんの髪を引っ張ったり体を押したりしてきた。余りのしつこさに沙織ちゃんが「うるさい!」と怒鳴ると、怒った芽衣ちゃんが沙織ちゃんの頭を叩いたらしい。
そこから喧嘩になり、沙織ちゃんは芽衣ちゃんを引っ掻いて腕に噛み付いた。
「沙織ちゃんはね、ずっと我慢してたんだよ。なのに芽衣ちゃんが叩いたから……」
事の真相が明らかになり、自分の娘にも非があると分かった母親は、今までの勢いはどこへやら。悔しそうにカリカリと爪を噛み「もういいわ!」と叫ぶと、芽衣ちゃんの手を引いて応接室を出て行ってしまった。
ホッとした表情の園長先生が結花ちゃんの頭を撫でている。私も結花ちゃんにお礼を言ってペコリと頭を下げると、結花ちゃんが嬉しそうに微笑んだ。
「先生、結花、遊戯室のお片づけしてくるね」
そう言って走り出した結花ちゃんの後を追い、沙織ちゃんも「あたしも手伝う」と走り出す。
二人が応接室を出て行くと、園長先生は「結花ちゃんに助けられましたね」って苦笑いを浮かべた。
「そうですね……あ、ところで、あの結花ちゃんって、図書館近くのタワーマンションに住んでる結花ちゃんですよね?」
確認の為にそう聞いたんだけど、先生達は顔を見合わせ不思議そうな顔をしてる。
「あの……タワーマンションに住んでるのは、結花ちゃんじゃなく、沙織ちゃんのはずですが……」