『それは、大人の事情。』【完】
「沙織……ちゃん?」
「あたしの味方してくれて、ありがとう」
それは、私を拒み続けてきた沙織ちゃんが、やっと心を開いてくれた瞬間だった。
「当然でしょ? 沙織ちゃんは私の大切な家族なんだから」
そう言うと目を逸らして下を向いてしまったが、私の手を離そうとはしない。そんな沙織ちゃんがいじらしくて、心底、愛しいと思った。
そして沙織ちゃんは「お姉ちゃんが作ってくれたお弁当、食べなくてごめんなさい」って謝ると、なぜ食べなかったのか、その理由を話し出した。
「ママがね、お昼前に幼稚園にお弁当を持ってきてくれてたの」
「沙織ちゃんのママが?」
「うん……だからお姉ちゃんのお弁当は食べなかった」
あぁ、そうか。沙織ちゃんはちゃんとお弁当を食べてたんだ。だから幼稚園の先生もお弁当を食べてないって言わなかったんだ。
「でも、なぜ沙織ちゃんのママは、わざわざお弁当を持って行ってたの?」
「それは……」
少し言いにくそうに沙織ちゃんが目を伏せる。
「怒らないから教えて?」
優しく声を掛けると、沙織ちゃんは私を見上げ小さく頷いた。
「あたしがママに頼んだの。ママのお弁当が食べたいから幼稚園に持ってきてって。お姉ちゃんの作ったご飯やお弁当を食べなかったらお姉ちゃんが怒って、パパのマンションを出て行くかなって……」
「えっ……」
「お姉ちゃんが居なくなったら、パパはママとあたしの所に戻ってきてくれるって思ったから」
「あ……」
それは、幼い沙織ちゃんが必死で考えた私を追い出す為の作戦だったんだ。