『それは、大人の事情。』【完】
沙織ちゃんがそんな事を考えていたなんて……もちろん好かれてないってのは分かっていたけど、それは、大好きなパパの彼女だから気に入らなくて反発してるだけだと思ってた。
まさか、ここまで憎まれていたとは……
「じゃあ、ママと一緒に居たくないから真司さんと暮らしたいって言ったのは、嘘?」
沙織ちゃんは迷う事なく大きく頷くと、今にも泣き出しそうな顔をして歩き出す。
「ママはね、ずっとパパの事が好きだったんだよ」
「えっ……でも、沙織ちゃんのママは、真司さんと別れてから他の男の人と暮らしてたんでしょ? その人が好きだったんじゃないの?」
「うぅん、違うよ。だってね、お酒飲んで酔っ払うと、いつもパパに会いたいって泣いてたもん。それでお兄ちゃんと喧嘩してた」
―――沙織ちゃんのママ、絵美さんが若いホストと別れて暫く経った時、絵美さんは、沙織ちゃんに会いに来た真司さんに復縁を迫ったそうだ。
でも、その時にはもう私と付き合っていて、真司さんは復縁を断ったらしい。それからの絵美さんは、子供の沙織ちゃんが心配するほどアルコールに依存する様になっていった。
沙織ちゃんはそんな絵美さんを見ていられなくて、彼女なりに考え、真司さんさえ帰って来てくれれば、絵美さんがまた以前の様な明るいママに戻ってくれるんじゃないかと思った。それで、私と真司さんを別れさせる為にこっちに来たんだと……
きっと、沙織ちゃんもママの為に必死だったのだろう。そう思うと胸が痛んだ。