『それは、大人の事情。』【完】
「―――んっ……?」
重い瞼を薄っすら開けると、なんだかいつもと景色が違う。
あぁ……私、沙織ちゃんを寝かせていて一緒に寝ちゃったんだ……
私の隣で小さな寝息を立ててる沙織ちゃんの頭をソッと撫で、起こさない様に静かにベットを出ると、自分の寝室を覗いてみる。
真司さん何時に帰って来たんだろう?全然気付かなかった。
こちらもまだ夢の中。ゆっくり寝室のドアを閉め足音をたてない様にキッチンに向かう。
沙織ちゃんのお弁当を作るのも今日が最後。この先、キャラ弁を作る事なんて、もうないだろうな。
「せっかく上手に作れる様になったのにな……」
沙織ちゃんのお弁当箱を食洗器から取り出し独り言を呟くと、なんだか無性に寂しくなり、熱いモノが込み上げてくる。
食べてくれなくてもいい。これは、私の最後の母親ごっこ。
精一杯の思いを込め作ったお弁当を幼稚園のリュックに入れ、そのリュックを胸に抱く。そして、嵐の様な二週間を振り返っていた。
子供の世話なんて絶対無理だと思いながら嫌々始まった沙織ちゃんとの同居生活。イラついたり悔しい思いも沢山したけど、今思えば全ていい思い出。自分がこんな気持ちになるなんて、二週間前には想像も出来なかったな……
ため息混じりにフッと笑い涙を拭う。そして「梢恵、しっかりしろ!」って自分に喝を入れ、沙織ちゃんと真司さんを笑顔で起こした。
またいつもと変わらぬ慌ただしい朝が始まる―――