『それは、大人の事情。』【完】
白石蓮は気付いていたんだ。私がどうして真司さんじゃなく、彼に助けを求めたかを……分かってて、何も言わず抱き締めてくれたんだ。
―――君は、優しい子
私は、ずっと前から彼の優しさに気付いていた。けど、気付かないフリをしていたんだ。生意気な子供だと自分に言い聞かせていないと、彼に溺れてしまいそうで怖かったんだ。
私は、私が思っていた以上に、白石蓮を好きになっていたのかもしれない。十歳も年下で、恋愛対象外だと思っていたのにね……
「ほら、早く部長さんに電話して」
「うん……でもやっぱり、タクシーで……」
「もう! 強情だな~」
痺れを切らした白石蓮が私の手からスマホを奪い取り、勝手に真司さんに電話してしまった。
「ちょっ……ダメだって言ってるのに!」
「もう遅いよ。ほら、スマホ持って。ちゃんと迎えに来てって言うんだよ」
私達の立場は完全に逆転していた。まるで私の方が年下みたい。彼に言われるまま、転んだと嘘を付き迎えに来て欲しいと真司さんにお願いする。
「……すぐに来てくれるって」
「そう、良かった」
白石蓮が笑ってる。もう私の事、吹っ切れたから? もう好きじゃないから?
自分から彼の気持ちには応えられないと言っておいて、無性に寂しくなる。私って、なんて欲張りで自分勝手な女なんだろう。
でも、ちゃんと分かってる。この気持ちは、決して口にしてはイケナイ。もちろん、白石蓮に気付かれてもイケナイ。私の胸の奥の奥。ずっと奥に封印しなくちゃダメなんだ……