『それは、大人の事情。』【完】
私と白石蓮の事、何も知らないのに……佑月のバカ。
そんな精神状態だったから、家に帰っても憂鬱で、久しぶりに早く帰宅した真司さんとの会話も弾まない。夕食も半分ほど残して箸を置く。
「元気ないな。なんかあったか?」
「うぅん、何もないよ。食欲がないだけ」
「最近暑くなってきたから夏バテかな……」
私を気遣ってくれる真司さんに悪いと思いながら逃げる様に席を立つ。が、彼の声が背後から追いかけてくる。
「それで、梢恵の両親にはいつ会わせてくれるんだ?」
「あ……ごめんなさい。私の両親共働きだから、なかなか私達と休みが合わなくて……」
「そうか、俺の親とは今週末に会うから、出来れば来週辺り会えればいいんだけどな。再来週には森下の結婚式も控えてるし……」
「そう……だね。今夜にでも電話してみる」
真司さんに急かされ、仕方なく彼がお風呂に入っている間に実家に電話すると、母親は真司さんに会えるのを楽しみにしていると大喜び。
母親曰く、もう私は結婚しないんじやないかと思っていたそうで、これで孫の顔を見れると嬉しそうに声を弾ませていた。
電話を切った私はスマホをソファーに放り投げ、大きく「はぁ~」と息を吐く。
決して、真司さんと結婚したくないと思ってるワケじゃない。むしろ結婚するのは真司さん以外に居ないと思ってる。もちろん彼を心の底から愛してるし、ずっと一緒に居たい。
ただ、今は……もう少しだけ、この状態が続いて欲しいと思っていた。そう、もう少しだけ、このままで……