『それは、大人の事情。』【完】

こんな気持ちになるなんて……


佑月に言われた言葉を思い出し、もう一度ため息を付くと、ソファーの上に転がっているスマホからラインの着信音が聞こえた。


ディスプレイに表示されてた名前は、白石蓮。彼とのラインは以前、電話番号を登録した時から繋がっていた。でも、あえてラインは使わずショートメールにしていたんだ。


それは、自分の気持ちに必死でブレーキを掛けていたから……彼とこれ以上親しくなるのが怖かったんだと思う。でも、もう……


私は迷う事なくラインの画面を開き、食い入るようにメッセージを読む。


【部長さんが居る時にラインしてごめん。撮影の事で話したい。明日、梢恵さんの仕事が終わった頃に裏口の自販機の前で待ってる。都合が悪かったらラインして。OKなら返事はいいから】


そして、次に送られてきたメッセージには【足、思ったより悪くなくて良かった。無理しちゃダメだよ】って……


OKなら返事はいらないって事だったが、勝手に指が動いていた。


【有難う。足はもう大丈夫。それと、明日は必ず行くから待ってて】


ホントはもっと感謝の気持ちを伝えたたかったけど、佑月の顔が浮かび指が止まった。


「泥沼なんて、有り得ない……」


私と白石蓮は、ギリギリの所で踏みとどまったんだ。何もヤマシイところはない。佑月が言ってた様な事にはならないんだから。


そんな事を思いつつ、"既読"が付いたメッセージを見つめ私の顔は綻(ほころ)んでいた。イケナイという思いとは裏腹に、私の中で彼の存在はどんどん大きくなっていく―――


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