『それは、大人の事情。』【完】
―――次の日の午後
佑月とはまだ気まづい雰囲気で、今日のランチは別行動だった。でも、時折り感じる佑月の視線は決して冷たいモノじゃない。
意地を張ってるのは、多分、私の方。佑月は私の事を心配してくれてるんだ。それが分かっていても素直になれなず、その視線に気付かないフリをしていた。
そして、佑月と一言も喋らないまま定時になり、白石蓮と約束した裏口へと急ぐ。
痛む足を引きずりながら細い通路を進み自販機まで来ると、白石蓮が清掃会社の事務所から顔を覗かせ駆け寄って来る。
「早かったね」
「うん、仕事が思ったより早く終わったから……」
それは嘘。早くここに来たくて必死で仕事を早く終わらせたんだ。
通路の奥にある古びたベンチに座り、改めて助けてもらったお礼を言う。
「部長さんは怪我の事、変に思ってなかった?」
「それは大丈夫。転んで怪我したって思ってるから」
「そう、良かった」
笑顔の白石蓮を見て、彼は本気で私と真司さんの仲を心配してくれてるんだって思った。
自販機で私の好きな缶コーヒーを買ってくれてる彼の背中を見つめ、心の中で呟く。
やっぱり、もう吹っ切れたんだね。それでいい。こうやって二人で会って、話しをするだけでいい。それだけで私の心は満たされるから……
でも、隣に並んで座り、缶コーヒーを手渡してきた時には、さっきの笑顔は消え、なんだか浮かない顔をしてる。
「―――それで、撮影場所なんだけど……」
「あ、うん、どこで撮るの?」