『それは、大人の事情。』【完】
缶コーヒーを一口飲み、半ば諦めた表情で遠い目をする白石蓮。そんな寂し気な彼の姿を見て、なんとかしてあげたいと思ってしまった。
二度と真司さんに嘘は付かないと決めたのに、この子の夢の為に、もう一度だけ……なんて、都合のいい事を考えている。
だって、私が望むならと、また写真を撮る決心をしてくれたんだもの。今度は私が彼の望みを叶えてあげる番だ。だけど、目的はなんであれ、婚約間近の私が他の男性と泊りで旅行に行くのは……やっぱマズいよね。
でも、私さえしっかりしていれば……理性を失わなければ……きっと大丈夫。何もない。何も起こらない。
その根拠のない自信が私の背中を押した。
「行こう。君の古里へ」
「えっ?梢恵さん本気で言ってるの?」
「本気だよ。私も君が育った町がどんな所か興味あるし。それに、その感動するくらい綺麗な朝日も見てみたい」
暗かった彼の表情が一気に明るくなり、薄いブルーの瞳がキラキラ光ってる。
「でもね、今月の週末は予定が入ってるの。来月でもいい?」
「もちろん! 梢恵さんの予定に合わせるよ」
まるで子供みたいに全身で喜びを表現している白石蓮を見ていると、私まで幸せな気分になる。
「叔父さんに感謝しなきゃいけないな~叔父さんがカメラ買ってくれなかったら、また写真を撮ろうなんて思わなかったし」
あ……カメラと言えば……気になっていた事があったんだ。
「ねぇ、君が私を助けに来てくれた時、手ぶらだったでしょ? あのカメラはどうしたの?」