『それは、大人の事情。』【完】

『九月二日は、死んだばあちゃんの誕生日なんだ。叔父さんは、ばあちゃんは俺がプロのカメラマンになるのを楽しみにしてたから、その日に俺の写真を展示したギャラリーをオープンさせるが何よりの誕生日プレゼントだって言ってた。

俺もそう思うから……」


そういう事か……なら、延期してなんて言えないな。


何か他にいい方法はないかと考えるが、ホテルの部屋が取れないのだからどうにもならない。スマホを耳に当てたまま途方に暮れていると、白石蓮の沈んだ声が聞こえてきた。


『もういいよ。俺がこだわらなかったら問題ないんだから……撮影は、どっか都内のホテルですればいい事だからさ』

「本当に、それでいいの?」

『仕方ないよ。それしか方法ないでしょ?』


「そうだね」と言って電話を切ったけど、仕事をしていても彼の落胆したあの声が耳から離れない。キーボードを打つ手が何度も止まり、その度にため息が漏れる。


私が仕事を休めたら……そうだ。私さえ休めれば問題ないんだ。


デスクの上のカレンダーを手に取り、仕事の予定を確認する。


まだ先の事だからなんとも言えないけど、お盆明けに頑張ればなんとかなるかもしれない。有給もまだ結構残ってるし、課長に言ってみようか……


そうと決まれば早い方がいい。せっかく空いてた日に予約が入ってしまったら元も子もない。


カレンダーをデスクに戻し、有給届を書いて課長に提出する。初めは渋い顔をしていた課長だったが、ひつこく食い下がる私に根負けしたのか、ようやく有給届に判を押してくれた。


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