『それは、大人の事情。』【完】
喜び勇んで自分のデスクに戻り、仕事をしてるフリをしながらこっそり白石蓮にラインする。
【さっきの撮影場所の事だけど、八月三十日、ホテルの予約取っといて。行けるかもしれない】
既読が付いたと思ったら、速攻で返事が返ってきた。
【ホント? いいの?】
【うん、なんとかするから】
そして十分後、白石蓮から【予約完了!】というメッセージがきた。
良かった。これでホテルの部屋は確保出来た。後は家に帰って真司さんに許しを貰うだけ。当然、会社を休んでまで出掛けるんだもの。真司さんが納得する様なもっともらしい理由がいる。
それが一番の難問だけど、実は二日前、白石蓮に彼の古里に行こうと言った時、思いついた事があった。
白石蓮の誕生日に大学時代の友達と会った事になってるから、それを利用しようと思ったんだ。その時、同窓会を兼ねて皆で旅行に行こうって話しになったって。
でも、白石蓮と話した時は休日に行くつもりだったからな……一緒に行く友達が、どうしても平日しか行けないって事にするしかない。うん、そうしよう。もうそれ以外思いつかないし。
けど……この撮影旅行が終わったら、私と白石蓮の関係も終わりなんだ……もう彼と関わる事はない。私は真司さんと結婚し、彼も私の事など忘れて他の誰かと……
カレンダーの八月三十日にピンクのマーカーで丸を付け、暫くの間、それをジッと眺めていた。