『それは、大人の事情。』【完】

―――その日の夜


私は、いつ真司さんにあの事を言おうかと機会を窺っていた。でも、いざ言おうとすると、妙に緊張して最初の一言が出てこない。そんな調子だから寝室に入るまで何も言えなかった。


ベットに入った真司さんは、さっき飲んだワインのせいか、もうウトウトと微睡み今にも眠ってしまいそう。


「……ねぇ、真司さん」


さすがにこのままではイケナイと焦り、彼の体を揺すって「話しがあるの」と切り出した。でも真司さんは、せっかく気分良く眠りに付くところを邪魔され不機嫌そう。


「んっ? なんだ?」

「えっと、あのね、また先の事なんだけど……八月三十日に、この前会った大学時代の友達と同窓会を兼ねて旅行に行こうって話しになって……」


後ろめたい気持ちが私を早口にさせる。そして、無意識の内にその声はどんどん大きくなっていく。


「そんなデカい声出さなくても聞こえてる……」

「あ、ごめんなさい」


気怠そうに体を起こした真司さんが大きく息を吐き、横目で私を見る。


「それは、この前の土曜日の話しか?」

「そう、私が転んで足を挫いた日の話し。今日、その友達から連絡があって、その日しか都合がつかない娘がいるみたいてね……平日だから、真司さんがいいって言ってくれたら参加しようと思ってるの」


有り得ないくらい心臓がバクついている。真司さんと付き合い出して、私はすっかり嘘が苦手なってしまった。あの、したたかだった私は、どこに行ってしまったんだろう……


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