『それは、大人の事情。』【完】
真司さんがなぜ、そんな条件を出したのか……分からない。でも、私を抱く彼の胸から伝わってくる鼓動が、普段よりずっと大きくて、凄く速いという事だけは、ハッキリ分かった。
やっぱり、真司さんは怒ってる。私が勝手に有給取ったのが気に入らないんだ。
「どうなんだ? 約束出来るのか?」
「分かった。真司さんが帰って来るまでに戻るから……」
「……約束だぞ」
その後も真司さんは、約束を守るよう何度も念を押してきた。彼がこんなに束縛してくる人だとは知らなかったな。でも裏を返せば、私の事を愛してくれてるって証拠だよね。
そんな真司さんを騙していると思うと、私はなんて悪い女なんだろうって、心が揺れた。
真司さん、ごめんなさい。でも私は絶対にあなたを裏切らない。これは、私と白石蓮のケジメなの。お互い別々の人生を歩む為のケジメ。
勝手な言い分だけど、こんな浮ついた気持ちで真司さんと結婚出来ないから。ちゃんと決着をつけたいの。だから許して……
縋る様な目で真司さんを見上げると、彼は私の唇を優しく撫で、掠れた声で呟いた。
「俺は、梢恵を愛しているからな」
「あ……」
その言葉を聞いた瞬間、自分の罪の深さを感じ、罪悪感で胸が押し潰されそうになった。
「私も愛してる。真司さんを……愛してる」
彼の大きな手が私の頬を包み込み、それに応える様に真司さんの肩に手をまわすと、唇が深く激しく重なり合う。
ちゃんと帰って来る。だって、私の帰る場所は、ここしかないんだもの。真司さんのこの広い胸しか……