『それは、大人の事情。』【完】

―――そして、週末。私は、真司さんのご両親に会う為、都内のホテルに来ていた。


お母様が好きだという中華料理の店で円卓を囲み、普段はめったに食べる事のない高級素材の料理を遠慮気味に口に運ぶ。


「こんなに若くて可愛いお嬢さんが真司のお嫁さんになってくれるなんて、本当に有りがたいわ」


お母様は終始笑顔で、大皿に盛られた料理を小皿に取り分け私に渡してくる。お陰で私の前は、色とりどりの料理が乗った小皿で一杯だ。


「承知して下さってるとは思うけど、真司には離婚歴があります。原因は、あちらの不貞だったからそれに懲りて、もう結婚はしないと諦めていたのよ。でも、また結婚する気になってくれて、凄く嬉しいの」


お母様の"不貞"という言葉にドキッとする。でも直ぐに、私と白石蓮はそんな関係じゃないと否定する。


「前の嫁は、勤めている会社の専務の娘って事もあって、真司も随分肩身の狭い思いをしたはず。初孫の沙織まで取られてしまって……」


会ってからずっと笑顔を絶やす事がなかったお母様の顔から笑顔が消えた。やっぱり、沙織ちゃんと離れてしまった事が寂しいんだ。


「母さん、せっかく楽しく食事をしてるんだ。その話しはもう……」

「あ、そうよね。今度は梢恵さんが可愛い孫を産んでくれるわよね。それで、結婚式はどうするの?」


まるで少女みたいに目を輝かせ聞くお母様に、真司さんは「俺は二度目だからな。簡単に食事会でもして済まそうと思ってる」って言ったんだ。


えっ? そうなの? 式は挙げないって事?


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