『それは、大人の事情。』【完】
当然、式を挙げ、披露宴もすると思っていたから真司さんのその何気ない一言は衝撃だった。
佑月みたいにワクワクしながらドレスを選んだり、引き出物を何にしようかと考えたり、ウエディングケーキは手作りがいいかな。なんて、そんなごく普通の結婚準備が楽しみだったのに……
そして何より、皆に祝福されながら深紅のヴァージンロードを歩くのが夢だった。
でも、この場で動揺した姿を見せてはいけないと思い、唇を噛み下を向く。するとお母様が突然テーブルを叩き大声で怒鳴り出す。
「何言ってるの? 真司は二度目でも、梢恵さんは初めての結婚なのよ。女性なら思い描いていた夢もあるでしょう。あちらの親御さんだって、結婚式を楽しみにされているはず。式はちゃんと挙げなさい」
あ……私が言いたい事を全部言ってくれた。
「そんなモノかなぁ……」
「そうよ! 全く……真司は女心が全然分かってないのね」
呆れ顔のお母様が私に目配せして小さく頷く。その姿を見て、私の事を大切に思ってくれているんだと分かり、感激してしまった。
そして帰り際、食事の間ほとんど喋らなかったお父様が私を呼び止め「真司を宜しくお願いします」と笑顔で頭を下げてくるから私も慌てて頭を下げる。
「愛想のない息子だが、あれで優しいところもあるんだよ。でも梢恵さんに何か失礼な事をしたらいつでも私達に言ってきなさい。叱ってやるから」
「あ、はい。有難う御座います」
このご両親ならきっと上手くやっていける。そう思った。こんな素敵な家族の一員になれる私は幸せ者だ。