『それは、大人の事情。』【完】

真司さんのご両親と会った一週間後、今度は私の両親に会う為、新幹線で実家に向かった。


実家に帰るのは、約三年ぶり。母親が結婚を急かす様になり、それがうっとおしくて帰ってなかったけど、これでなんとか親孝行出来そうだ。


けど、気掛かりなのは、父親の事。昔気質で頑固なところがあるから、真司さんが再婚で子供が居るって分かったらなんて言うか……ちょっと心配だ。


―――でも、どうやらそれは取り越し苦労だったみたいで……


初めは真司さんが再婚だと知り、露骨に嫌な顔をしていた父親だったが、彼とお酒を酌み交わしている内に真司さんの人となりが分かってきた様で、すっかり安心して私達の結婚を許してくれた。


二人は酔った勢いで、もう結婚式の日取りを相談してる。全てが順調に進みホッとしていると、キッチンでお酒のつまみを作っていた母親に呼ばれた。


「真司さんって、いい人そうね」

「うん、いい人だよ。仕事も出来るし、頼りがいもあるし」


母親の横に並んでシンクに溜まった皿を洗い始めると、包丁の音が止まり母親がボソッと呟く。


「梢恵は、本当に彼でいいの?」

「えっ?」


私の結婚をあんなに望んでいた母親が、そんな事言うなんて思ってなかったから驚いた。


「それ、どういう意味?」

「別に深い意味はないわよ。なんとなく……ね。あなたがいいって言うならいいけど……」

「いいに決まってるでしょ!」


豪快に笑い飛ばしたけど、本当は有り得ないくらい動揺していた。


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