『それは、大人の事情。』【完】
翌日、私は佑月をランチに誘った。
佑月にとって、今日が八年間務めた会社最後の日。今日佑月と話さなかったら、もうずっと、このままかもしれない。それだけは絶対にイヤだった。
選んだ店は老舗の洋食店。ここのフワフワオムライスは佑月の大好物。トロける様な黄金色の卵が乗ったオムライスが真っ白なテーブルクロスの上に置かれると、佑月がやっと笑顔を見せた。
その笑顔を見て、胸につかえていた何かがスーッと消えていくのを感じ、素直に言う事が出来たんだ。
「……佑月、ごめんね」
すると視線を上げ、チラリとこっちを見た佑月が小声で「……私もごめん」と呟く。
「佑月は悪くないよ。私の事心配してくれたんだもの」
「でも、ちょっと言い過ぎた」
「そんな事はない。私は真司さんを裏切っていたんだから……」
「えっ……」
目を大きく見開いた佑月のスプーンからスルリと黄金色の卵が零れ落ちる。
「梢恵……アンタ、まさか本気で、あの子の事……」
佑月をランチに誘った時から決めていた。佑月には本当の事を話そうと―――そう、何もかも包み隠さず全て……
「私はあの子が……白石蓮が……好き。でも、彼とは何もない。これだけは信じて」
佑月に軽蔑されるのを覚悟で誰にも言えなかった白石蓮への想いを吐き出すと、驚くほど気持ちが楽になった。
「……そういう事か」
両手で顔を覆った佑月が大きなため息を付く。
「でも、ちゃんとケジメ付けるつもりだから……」