『それは、大人の事情。』【完】
複雑な気持ちで笑顔を作ると、なぜか急に理央ちゃんが浮かない顔をする。
「でも私、近々イギリスに留学する予定で……」
「イギリス?」
「はい、うちの専門学校はイギリスに姉妹校があるんです。毎年、先生の推薦で成績優秀な生徒を二人、その姉妹校に無償で留学させてくれるんです」
「へぇ~理央ちゃん優等生なんだ。凄いね」
「でも、せっかく蓮君が復活したのに、また離れちゃうんですよね~」
理央ちゃんは白石蓮が好きなんだもんね。
「でも留学って、そんな長期じゃないんでしょ?」
「う~ん、半年くらいかな?」
「なら、またすぐ会えるじゃない」
「ですよね! 半年なんてすぐですよね!」
零れる様な笑顔の理央ちゃんを見て思う。白石蓮には、私なんかより理央ちゃんの方がお似合いだと。お互いまだ二十歳で、同じ夢を追っている。きっと、最高のパートナーになれる。
「あの……私の顔になんか付いてますか?」
どうやら無意識の内に理央ちゃんの顔をガン見してた様だ。「なんでもない」と首を振った時、会場のドアが開き、佑月がお色直しから戻って来た。
理央ちゃんは慌てて席を立ち、キャンドルサービスで各テーブルをまわる二人にカメラを向けている。
そして、私の居るテーブルに来た佑月が、理央ちゃんのカメラのフラッシュに照らされながらトーチでテーブル中央のキャンドルに火を点けると、私だけにしか聞こえない小さな声で囁いた。
「私は本当に好きな人と結婚したよ。梢恵も本当に好きな人と結婚しなきゃダメだよ」