『それは、大人の事情。』【完】
本当に好きな人か……
週明けの月曜日、私は佑月に言われた言葉を思い出し、主が居なくなった向かいのデスクを虚ろな目で見つめため息を付く。
佑月ったら、自分が本当に好きな修と結婚したからって、全ての人が本当に好きな人と結婚出来るとは限らないんだから……なんて思いながらも、私の視線は壁の時計に移っていた。
そろそろだな……って思った直後、予想通りオフィスのドアが開く。でも、入って来たのは小太りのおばさん。手際よく自販機の空き缶を回収してオフィスを出て行く。
私ったら、何期待してんだろう。佑月があんな事言うから……もう! 佑月のバカ!
なんだか仕事する気分になれず、少し頭を冷やそうとオフィスを出てトイレに向かって歩いていたら、男子トイレの前であるモノに目が止まった。
それは、"清掃中"の札。イケナイと思いつつ、辺りに誰も居ないのを確認して男子トイレの中を覗き込むと、床をモップ掛けしていた清掃員が私に気付き、満面の笑みを浮かべる。
「あ、梢恵さんじゃない。偶然だね!」
「う、うん……」
妙に意識している私とは対照的に、彼は掃除をする手を止める事なく笑顔で私を見つめている。
「この前は、ごめん。ライン間違えちゃって……」
「あぁ~あれね。梢恵さん酔っぱらってたんでしょ? 俺は嬉しかったから気にしないで」
嬉しいと言う言葉が、また私の心を掻き乱す……