『それは、大人の事情。』【完】
それから順に隣の写真を見ていったが、蓮が言っていた通り、私と特定出来るモノはない……
朝日を受け佇(たたず)む横顔は、逆光で陰になているから私とは分からない。隣の写真も眩しい光が私の顔を隠している。どの写真もギリギリのところで顔は写っていなかった。
「ねっ、いい作品でしょ? さすが蓮君だな。私にはこんな写真撮れないもの」
真剣な眼差しで写真を見つめている理央ちゃんに「ホント、いい作品だね」と言って再び視線を写真に戻す。
カフェに入る前、イヤな気分になるんじゃないかと心配したけど、全然そんな事なかった。それどころか、感動して泣いちゃいそう。私をこんなに素敵に撮ってくれて……蓮、有難う。
ここに来て本当に良かった。この写真を見たら胸につかえていたモノが跡形もなく消えてなくなってしまった様な、そんな気がして……
私も、もう思い残す事はないよ。
目頭がじんわり熱くなるのを感じた時、理央ちゃんが力強い声で言う。
「だからね、私決めたの」
「んっ? 何を?」
「この作品を専門学校の先生に見せようと思って。これが電話で言ってた"いい話し"。もうオーナーさんにも了解してもらってるの」
理央ちゃんの話しによると、夏休み明けに、理央ちゃんが留学するイギリスの姉妹校の特別講師が来日し、生徒の写真の講評をしてくれるそうだ。
「私達はもう夏休み前に作品を提出済だけど、蓮君は夏休み明けからの復帰だから作品を提出してないの。一人だけ講評を貰えないのは可哀想でしょ? その特別講師って、結構有名な写真家だし、こんなチャンスそうないから」