『それは、大人の事情。』【完】
「そういう事か……うん、せっかくのチャンスだものね」
「うん! でね、この事を蓮君に言おうと思ってさっき電話したんだけど、全然出なくて……だからオーナーさんに言って、勝手に借りてく事にしたの」
蓮がまた写真を始める事を誰より願っていたオーナーは、理央ちゃんの言葉にうんうんと頷き、嬉しそうに笑っている。
「いっその事、蓮には内緒にして驚かしてやろうかって、理央ちゃんと話してたんだよ。ねぇ~理央ちゃん」
「ねぇ~オーナーさん!」
この二人、妙に意気投合してる。
「で、どの写真にするの?」
「あ、えっとね、あの作品にしようと思って」
それは、まだ見ていなかった一番奥に展示されていた写真。ゆっくり近付き、その写真が視界に入った瞬間、全身に鳥肌が立った。
「これは……」
理央ちゃんが選んだのは、私が昇る朝日に向かって両手を広げ、全身で日の光を浴びている写真だった。たなびくクロス越しに浮かび上がった私のシルエットが、まるで光を放つ十字架の様に見える。
そうか……蓮の目には、あの場面がこんな風に映っていたんだね。
「どの作品も素敵だけど、この作品がダントツでいいんですよ! 梢恵さんはどう思います?」
写真の評価なんて私には無理だけど……「そうだね。私もこれが一番好き」
「ですよね! でも、ギャラリーがオープンしたばかりで一番いい写真を借りちゃって……オーナーさん、ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げる理央ちゃんに、オーナーはとても嬉しそうに声を弾ませる。
「いやいや、蓮の為になるなら全然OKだよ」