『それは、大人の事情。』【完】
なんでこんな事になっちゃったんだろう……と思いつつ、助手席で背筋をピンと伸ばし、ひたすら進行方向を見据えていると専務が隣で、あり得ないくらい大きなため息を付いた。
うぅっ……なんかヤな雰囲気。威圧感が半端ない。今すぐこのドアを開けて車から飛び降りたい気分だ。
寒いくらい冷房が効いているのに、全身にじんわりと汗が滲んでくる。すると突然専務が「絵美がアル中になったは、君のせいだよ!」と吐き捨てる様に怒鳴った。
「私のせい……?」
「そうだ。君が現れたせいで、絵美は真司君と再婚出来なかったんだ。二人がまたやり直す事が出来れば、全て丸く収まっていたのに……」
やっぱり専務は私が絵美さんから真司さんを奪ったと思っているんだ……
「絵美はね、今でも真司君が好きなんだよ。浮気をしたのも彼に構ってもらえなくて寂しかったからで、それを真司君に気付いて欲しかっただけなんだ」
えっ? 構って欲しかったから浮気? 専務には悪いが、それは余りにも身勝手な言い分だ。寂しいからって浮気していいはずがない。
「……でも、離婚を切り出したのは絵美さんだと聞いていますが……絵美さんが真司さんの事を想っていたならどうして別れるなんて……」
「絵美は真司君が離婚に応じるとは思ってなかったんだよ。離婚すると言えば、真司君だって今までの自分の行動を悔い改め、家族との時間を大切にしてくれると思った。
しかし、真司君はアッサリ離婚を承諾し、沙織まで絵美から奪おうとした。だから私は彼を九州支社に行かせたんだ」