『それは、大人の事情。』【完】
「やせ細った絵美が泣きながら何度も言うんだ。真司君に会いたいってね。そんな絵美の姿を見て、私は泣けてきたよ。そして思ったんだ。絵美の望むようにしてやりたいと……」
「だから真司さんを本社に戻して再婚を迫ったんですね」
「あぁ、しかし、彼はそれを断ってきた。すると沙織が絵美に言ったそうだ。自分が真司君を連れ戻すって。私や家内はその事を知らされてなかったから、沙織が真司君の所へ行ったと聞いて焦ったよ。
で、真司君を呼び出したんだか、彼が来る前に絵美に事情を聞いて、そういう事ならと沙織が真司君の所へ行くのを許したんだが……」
でもまさか、その沙織ちゃんが私と真司さんの結婚に賛成するとは思わなかったと専務が肩を落とす。
あぁ……そういう流れだったのか……だから真司さんはすぐに帰って来たんだ。
「沙織はその事に少なからず責任を感じていたんだろう。それから絵美を必死で支えていたよ。実に健気で、見ているこっちが辛くなるほどだった」
「沙織ちゃんが……?」
私が真司さんと結婚出来ると喜んでた裏で、幼い沙織ちゃんがそんな辛い思いをしてたなんて……てっきり、絵美さんが納得して諦めてくれたものだと思っていたから。
「しかし、沙織のそんな気持ちは絵美には届かなかったみたいでね。前にも増してアルコールの量が増えて引きこもる様になっていった。家内も心配して泊まり込んでいたんだか、明日は私の出張があるのでたまたま戻って来ていて……そうしたらあんな事に……
絵美の様子がおかしいと救急車を呼んだのは、まだ小学生にもなってない沙織だったんだよ」