『それは、大人の事情。』【完】
佑月の結婚式からそれほど経ってないのに、なんだか凄く久しぶりに声を聞いた様な気がする。
「うん、元気! それで、ヨーロッパ旅行はどうだったの? 今時、二週間も新婚旅行に行く人なんて居ないよ~修はよく仕事休めたね」
『まあね~彼、有給溜まってたから無理やり消化させちゃった。今は休んだ分、皆にこき使われてるらしいよ』
佑月の明るい声を聞くと、なんだかホッとする。
『梢恵ももうすぐ結婚だね。新婚旅行はどこ行くか決まったの?』
「一応、ハワイに決まったんだけど……」
そこまで言って言葉に詰まった。すると、今まで誰にも相談出来ず溜め込んでいたモノが堰を切った様に一気に噴き出してきて、専務に言われた事、絵美さんの事、そして沙織ちゃんの事を全部吐き出していた。
『そっか……それ、ヤバいよね』
「そう思う?」
『うん、だって、専務が梢恵にそこまで言うって事は、かなり追い詰められてるって事でしょ? このまま専務を無視して梢恵達が結婚したら、今度は部長、どこに左遷させられるか……」
あぁ、そうか。結婚出来たとしても、そっちの心配があったんだ……
『下手したら、なんか理由を付けて解雇とかもあるかもよ。そうなったら最悪だね』
私のせいで解雇だなんて、そんな事になったらどうしよう。益々気分が滅入ってしまう。
『でもさ、部長は絵美さんの所に戻る気はないんだし、専務だって嫌がる部長を無理やり絵美さんと結婚させるなんて出来ないんだからさ。梢恵は部長を信じて待つしかないね』
「そうだね……」
ため息混じりにそう返事をすると、佑月が急に声のトーンを落とし『それで……あっちはどうなったの?』って聞いてきた。