『それは、大人の事情。』【完】
電車を降り、見慣れた景色の中を歩いて行くと、蔦の葉が絡まる白い壁が見えてきた。
そう、私が気分転換に選んだのは、やっぱりこのカフェ。オーナーに声を掛け、そのままオープンテラスのいつもの席に座る。
オーナー手作りの大きなハンバークが乗ったドリアを食べながら夏の夕暮れを眺めるのも悪くない。
蓮は今頃、会社で清掃のバイトのはず。彼がここに来る心配はない。これからは、この時間にちょくちょく顔を出そうかなと思っていたら、聞き覚えのある声が店内から聞こえてきた。
「梢恵さんじゃないですかー! また会いましたね」
「あ、理央ちゃん。ホント、よく会うね」
私の前の席を指差し「ここ、いいですか?」って聞く理央ちゃんに笑顔で頷き、さっき、久しぶりに佑月と電話で話したと言うと、なぜか急に慌てだす。
「この前の話し、お姉ちゃんに言ってないですよね?」
「この前の話し?」
「ほら、蓮君の事ですよ~。私が蓮君に告ったって話し。お姉ちゃんは蓮君はやめとけとか言ってたからまだ知られたくなくて……」
「そ、そうなんだ……大丈夫。言ってないよ」
佑月は私と蓮の事があったから反対したのかもしれないな……それより、蓮と理央ちゃんはどうなったんだろう。
一度知りたいと思うと、その気持ちを抑える事が出来なかった。私にはもう関係ない事なのに、どうしても気になる。
「あぁ~良かった!」って声を弾ませる理央ちゃんに、とうとう我慢出来ず聞いてしまった。
「あの子とは……どうなったの? 返事もらった?」