『それは、大人の事情。』【完】
「えっと、それが……返事はまだなんです。私も気になってはいるんですけど、あんまり催促するのも悪いと思って……」
「そう……まだなんだ」
どこかホッとしてる自分がいた。どうしてこんな気持ちになるんだろう。もう吹っ切れたはずなのに……
でも、そう思えば思うほど、目を瞑れば浮かんでくる―――少しウェーブがかかった艶のあるダークブラウンの髪と、透ける様な白い肌。そして薄いブルーの瞳。
蓮……いつになったら君は、私の心から消えてくれるの?
堪らず苦しい胸にソッと手を当てた時、理央ちゃんが私に、とってもいい話しがあると目を輝かせる。
「えっ? いい話しって、何?」
「この前、専門学校に特別講師が来て作品の講評があるって言ったでしょ? それ、今日だったんですけど、カフェで預かった蓮君の作品。あれが最優秀に選ばれたんです!」
「えっ……あの写真が?」
『はい、蓮君、あの写真がどうしてここにあるんだって、キョトンってして……あの顔、梢恵さんとオーナーさんに見せてあげたかったですよ』
「そ、そう」
理央ちゃん、よほど嬉しかったのだろう。あの写真の講評を事細かに教えてくれたんだけど、やっぱり私にはイマイチよく分からない。
「でね、蓮君、講師の先生がアレン・ノーマンだと分かると凄く興奮して、質問攻めにしてました。なんでも写真を始めるきっかけになったのが、その先生の写真集だったとか……」
あっ……そうだ。アレン・ノーマンって、蓮の実家で見た写真集の人だ。