『それは、大人の事情。』【完】

「蓮君、ホントに嬉しかったんでしょうね。でも、あんまりしつこく質問するから担当の先生が困っちゃって、もういいだろうって注意されたんですよ。そしたら蓮君、最後に一つだけって、妙な質問してました」

「妙な質問?」

「そうなんですよ。ハウエル・ブラウンって知ってますか? って」

「ハウエル・ブラウン? それ、誰なの?」

「さぁ~? 蓮君はプロの写真家だって言ってたけど、聞いた事ない名前だし、メジャーじゃないのかな? ノーマン先生も知らないって言ってた。私も後でネットで調べたけど、そんな名前の写真家居なかったし……」


そこまで言うと、腕時計を見た理央ちゃんが「あぁっ!」と大声を上げる。


「もうこんな時間。友達とカラオケに行く約束してるからもう行かなきゃ」

「えっ? もう帰っちゃうの?」

「はい、今日は、お借りした蓮君の写真を返しに来ただけなんです。蓮君ったら、私が勝手に借りてきたんだからお前が返しとけって、さっさとバイトに行っちゃって。

でも、私が借りてきたお陰でノーマン先生と話せたのに。ホント、感謝の気持ちなんて全然ないんだから~」


なんて言ってるけど、理央ちゃん嬉しそう。


理央ちゃんが慌ただしくカフェを出て行くと、入れ違いにオーナーがやって来て、神妙な顔で今まで理央ちゃんが座っていた椅子に腰を下ろす。


「オーナーどうしたの? 怖い顔して」


茶化してそう言ったのに、オーナーは全く表情を変えず「今、ハウエル・ブラウンって言ってたよね?」って聞いてきたんだ。


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