『それは、大人の事情。』【完】
「う……ん、蓮がアレン・ノーマンって写真家の人に聞いてたみたいだよ。ハウエル・ブラウンって写真家知らないかって」
「アレン・ノーマンだって?」
今度は上ずった声で叫んでる。オーナーどうしちゃったんだろう?
「オーナー、その二人の事知ってるの? だったらあの子に教えてあげたら? で、ハウエル・ブラウンって誰なの?」
軽い気持ちで聞いたのに、オーナーは真顔で私を見つめ「今から話す事は誰にも言わないで」って念を押してくる。
「梢恵ちゃんだから話すけど、ハウエル・ブラウンは蓮の父親なんだよ」
「えっ、プロの写真家だって言ってた蓮の父親?」
「そう、蓮は父親の事を恨んでいたから、今までその名前を一切口にする事はなかったのに、どうして……」
オーナーは困惑してたけど、私はなんとなく蓮の気持ちが分かる様な気がした。そう、これはあくまでも私の想像だけど……
「あの子は、憎いお父さんと同じ写真家になるのがイヤでカメラを捨てたじゃない。でも、もう一度、カメラを持つ決心をして、少しずつ気持ちが変わっていったんじゃないかな」
ポカンとした顔のオーナーが「どういう事?」と首を傾げる。
「蓮も大人になってきたんだよ。今まではただ拒絶していたけど、写真家の先輩としてお父さんの事を知りたいって思う様になってきたのかも」
「はぁ~なるほどね」
納得した様子のオーナーと目を合わせ、自信満々に頷くが、一つだけ、どうしても分からない事があった。