『それは、大人の事情。』【完】
「でも、プロの写真家ならネットで調べれば名前くらい出てきてもいいはずなのに……なんの手掛かりもないなんておかしいよね」
すると、今まで私を尊敬の眼差しで見つめていたオーナーの目付きが変わり、眉がピクリと反応した。
「……出でくるはずないよ」
「えっ?」
「そもそも、ハウエル・ブラウンなんて名前の写真家は居ないんだから……」
オーナー何言ってんだろう? って、頭の中が"?"で一杯になる。
「居ないって、どういう事?」
「ハウエル・ブラウンっていうのは本名で、仕事の時は別のネームを使っていたからね」
あぁ……そうか。だから検索しても出てこなかったんだ。
なら、その事を蓮に教えてあげたらと言うが、オーナーは渋い顔をして下を向いたまま黙り込んでしまった。
「あの子、お父さんに会いたいのかもしれない。どんなに恨んでたとしても、たった一人の父親なんだから。本当は会いたいって思っていたのかもしれないよ」
身を乗り出しオーナーに詰め寄ると、眉を下げたオーナーが小さな声でボソッと言った。「―――もう、会ってるよ」って……
「何? 誰と会ってるの?」
「だから、もう蓮は父親に会ってるんだよ」
今度は私がポカンとして首を傾げる。
「蓮の父親、ハウエル・ブラウンが仕事の時に使っていたネームは……アレン・ノーマンなんだよ」
「えっ……じゃあ、ハウエル・ブラウンとアレン・ノーマンは、同一人物?」