『それは、大人の事情。』【完】
その話しって、以前、蓮に聞かされた私との出会いに似てる。って言うか、ほぼ一緒だ……
「その女性の事が気になったハウエルは、また会える事を願い、撮影そっちのけで喫茶店に通い続けたそうだよ。そして、数日後、その女性が喫茶店の前を通り掛かった。
それで、初対面にも関わらず、写真のモデルになって欲しいと頼んだそうだ」
あ……風景写真しか撮らないアレン・ノーマンが、一度だけ人物を撮ったと蓮が実家で話してくれたのは、この時の事だったんだ。
「蓮のお母さんビックリしたでしょうね」
「そりゃそうだよ。突然素性も分からない外人にモデルになって欲しいって言われたんだからね。当然断ったって言ってた。でも、彼は自分の写真集を見せ、決して怪しい者じゃないと必死で説明したそうだ。
姉は大学で英語を専攻してたからある程度の会話は出来たみたいでね、モデルは出来ないけど、こうやって話すだけならと、次に会う約束をして別れたそうだ」
そして二人は、毎日海岸で待ち合わせをして、日が暮れるまで話し込んでいた。そして、お母さんの夏休みももう僅かになったある日、ハウエルはお母さんを自分が泊まっているリゾートホテルに連れて行き、ディナーをご馳走した。
それは、私と蓮が泊まったあの岬の上に建つリゾートホテルだった。
「その時はもう、姉もハウエルの事が好きになっていたんだろうな。その夜、ハウエルの部屋に泊まり、写真のモデルになったんだよ」
信じられない。こんな事ってあるんだろうか? 私と蓮は、お母さん達と同じ場所で撮影してたんだ……