『それは、大人の事情。』【完】

それから三年ほど二人は日本とイギリスで離れて暮らし、ハウエルの母親が完治したのをきっかけに、ハウエルは日本に帰ろうとした。


でもその頃には、ハウエルはイギリスを代表する写真家になっていて、注目を浴びていたんだ。それを知っていたお母さんは帰って来なくていいと言って、離婚を切り出した。


「なぜ? 離婚までしなくても良かったんじゃ……」

「姉はね、ハウエルと出会った頃、彼が、いつか故郷のイギリスで有名な写真家になって両親を喜ばせたいって言ってたのを覚えていたんだよ。その邪魔をしたくないと思ったらしい。

今、日本に戻る事は彼の為にはならない。苦労して、やっと成功したんだからハウエルには祖国で好きな写真を好きなだけ撮らせてあげたい。そう言ってた」

「そうですか……」


と言ったものの、私には、蓮のお母さんの気持ちが理解出来なかった。


好きな人の夢を叶えてあげたいという気持ちは分かるけど、離婚までする必要があったんだろうか?


「僕がこの話しを聞いたのは、姉が亡くなる少し前だったんだ。その時、離婚の理由は絶対に誰にも言うなって口止めさたから、僕も言えなくてね。事情を知らない母親は、姉がハウエルに捨てられたって思ってたんだ。だから蓮にもハウエルは酷い男だって……」

「あぁ……それでお父さんを憎んでいたんですね」

「僕がもっと早く蓮に事情を説明してれば良かったんだけど、姉を裏切る様な気がして言えなかったんだ。でも、蓮とハウエルは偶然にも再会した。ハウエルは蓮が自分の息子だって気付いたばずたよ」


そうか……出来る事なら二人が話し合って、蓮の誤解が解けてくれればいいんだけど……


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