『それは、大人の事情。』【完】
✤ 自己犠牲
カフェでオーナーに蓮のお父さんの話しを聞いてから三日が経った。
真司さんは相変わらず病院通いをしていて、私が絵美さんの事を聞いても難し顔をして多くを語らない。ただ「迷惑を掛けてすまない」と言うだけ。
結婚式まで、もう一ヶ月を切ってるのに、こんな状態でホントに結婚出来るのかな……
日に日に不安が増していく。でも、どうする事も出来ない。それがもどかしくて……だから今日も真っ直ぐ家に帰る気になれず、あのカフェに向かっていた。
でも、カフェに近付くにつれ、なんかおかしいなって思い出したんだ。オープンテラスの照明が消えている。まさか休み? 今日は定休日じゃなかったよね……
……が、嫌な予感は的中した。カフェの入り口には《Close》のプレートが掛かっている。
うそ~休みだなんて最悪……せっかくここまで来たのに……と諦め切れず、ドアの小さな硝子窓に顔を密着させ中を覗き込むと、あれ? 誰か居る。
定休日でもないのに休んでいるって事が気になり、硝子をコンコンと叩いてみたら、足音が近付いてきた。
「あれ? 梢恵ちゃんじゃない。来てくれたんだ」
ドアを開けたオーナーが申し訳なさそうに私を上目遣いでチラッと見る。
「オーナー……休みって、体調悪いの?」
「あ、いや……見ての通りピンピンしてるよ。実はね、お客さんが来てて……」
そう言ったオーナーが振り返った先に居たのは、ダークブラウンの髪に、薄いブルーの瞳の白人男性だった。