『それは、大人の事情。』【完】
「まさか……蓮のお父さん?」
思わず大声で叫んでしまい慌てて口を押えると、オーナーが苦笑いを浮かべポリポリ頭を掻く。
「うん、やっぱり専門学校で会った蓮が自分の息子だって気付いたみたいでね、学校に提出した身元保証人の書類に僕の電話番号が書いてあったらそれで電話をくれたんだ。で、取りあえず、蓮が居ないこの時間に来てもらったんだよ」
「あぁ、だからお店休みにしたんだね」
「そう、仕事しながら話す様な事じゃないからね」
そんな大事な話しをしてる時に、私ったら思いっきり邪魔しちゃった。
「そうだよね。じゃあ、私はこれで……失礼しました」
そそくさと帰ろうとしていたら、ハウエルさんが優しい笑顔で「蓮の友達ですか?」と声を掛けてきたんだ。
えっ、私と蓮って、友達……なのかな? ちょっと違う様な気がするけど、説明出来ないので「一応……友達です」と答えると「蓮の話し聞かせて下さい」って流暢な日本語でお願いされた。
「で、でも、私は……」
困ってしまい助けを求めるつもりでオーナーに視線を向けたのに、オーナーは私の気持ちに全く気付かず「梢恵ちゃん、聞かせてあげてよ」なんて言ってる。
仕方なく、気さくで明るい子だと言うと、ハウエルさんはもっと教えて欲しいと身を乗り出し、私の話しを食い入る様に聞いていた。そして、オーナーの手を握り「いい子に育ててくれて有難う」って、何度も頭を下げている。
その姿を見て、彼は蓮の事を忘れてなかったんだとホッとした。