『それは、大人の事情。』【完】
「……それ、どういう意味?」
涙を拭い大きく見開いた目で真司さんを凝視する。
「ほら、会社の清掃会社の子……白石蓮って言ったかな? アイツは本気で梢恵を愛してる。そして、梢恵、お前もアイツが好きなんだろ?」
「バ、バカバカしい。意味分かんないよ……なんで私があんな坊やを……」
呆れ顔で否定したけど、内心は動揺しまくりだった。激しい鼓動が体中に響き、まるで全身が心臓になったみたい。
「もう隠さなくていいだよ。俺は梢恵を責めているワケじゃないんだから。むしろ背中を押してもらえたと感謝してるくらいだ」
「私が背中を押した?」
「あぁ、絵美が笑顔を見せ始めた時、義母に言われたんだ『親の自分達がどんなに励ましても絵美はニコリとも笑ってくれなかった。でも、真司さんの姿を見ただけで最高の笑顔を見せてくれる。やっぱり親と好きな人では違うのね』って。
その時、思ったんだ。梢恵は俺に最高の笑顔を見せてくれているんだろうか? もしかしたら、俺の知らない笑顔を白石蓮だけに見せていたのかもしれないなってな」
「そんなの真司さんの想像でしょ?」
「いや、なんとなく気付いていたんだよ。俺と居る時の梢恵は、俺に気を使って俺の顔色を伺っていた。無理していたんだろ?」
大きく首を振り「無理なんてしてない!」と叫んだが、頭の中では、正反対の事を考えていた。
確かに……真司さんと居る時は、自分を良く見せ様と背伸びしていたかもしれない。それに、彼に釣り合う女性にならなくてはという焦りもあった。