『それは、大人の事情。』【完】
「俺が梢恵とアイツの仲を疑い出したのは、梢恵が欠品の謝罪でレストランに行ったと聞いた時だ」
「えっ? あの時?」
「そうだ。梢恵が行ったと聞く前に、販売部の部長から、本来なら販売部の人間が謝罪に行くべきだったのに、ウチの部に迷惑を掛けてしまい申し訳なかったと内線があったんだ。
そして、改めて自分がレストランに謝罪に行って来たからもう問題ないと報告してくれたんだが、その時、レストランのシェフと話した内容を教えてくれたんだよ……」
その内容は―――謝罪に来てくれた女性社員が二日後の夜に、その日が誕生日だという男性とわざわざ食事に来てくれて、かえって気を使わせてしまったみたいで悪かったと恐縮してたと……
そして、シェフと話しをしている最中に、女子社員と一緒に食事に来てた男性がレストランに預けてあった荷物を取りに来たと聞いたので、真司さんがウチの社員かと聞くと、販売部の部長は、社員ではないが、清掃会社でバイトしてるハーフの男の子だったと言った。
それで真司さんは、その女性社員が誰か気になり確認すると……
「私だったんだね……」
「そうだ。まさか梢恵だとは思ってなかったら驚いたよ。確かその日は、大学時代の友人と食事に行くと言ってたよな?」
「そう……だね」
そんな前から真司さんは私と蓮を疑っていたんだ……
「でもまだ、その時点では疑惑の段階だった。間違いないと確信したのは、梢恵が有給を取って旅行に行くと言い出した時だ」