『それは、大人の事情。』【完】
電話を切ったオーナーが興奮して舞い上がっている。オーナーのこんな姿を見るの初めてだ。
「オーナー、どうしたの?」
「梢恵ちゃん、蓮が……蓮が、イギリスに行く事になったんだよ!」
「えっ……」
「専門学校の先生からすぐに学校の方に来るようにって連絡があって行ってみたら、ハウエルが蓮をアシスタントに迎えたいと専門学校に連絡があったって……」
蓮が、イギリスに……行く?
「じゃあ、ハウエルさんは自分が父親だと蓮に言ったの?」
「いや、蓮はまだ何も知らない感じだった。アレン・ノーマンのアシスタントという事でお誘いがあったって言ってたから。きっと、向こうに行ってから話すんだろうね」
「蓮は、喜んでた?」
「そりゃ~もう、凄く興奮して、初めは何言ってんだか分らなかったよ」
そんな……蓮、イギリスに行っちゃうの?
全身の力が抜け、椅子に座り込むと暫し呆然と宙を見つめる。
やっと、素直に自分の気持ちを伝えられると思ったのに……アシスタントになれば、いつ日本に帰って来るかも分からない。それに、向こうに居るのは蓮の父親だ。
離婚の本当の理由を知れば、蓮だって父親を恨む気持ちは消えるはず。そうなったら蓮はもう、日本には帰って来ないかもしれない。
蓮に会えなくなるのかとガックリ肩を落とし途方に暮れていたら、ふとある考えが頭に浮かんだ。
あ……なら、私もイギリスに行けばいい。そうすれば、蓮と一緒に居られる。