『それは、大人の事情。』【完】
きっと、蓮だって私が行くと言えば反対はしないよね。
そう思った時、カフェのドアが開き、誰かが飛び込んで来た。蓮が来たんだと思い立ち上がると、そこに立っていたのは、息を切らし涙ぐんでいる理央ちゃんだった。
理央ちゃんは私を見るなり抱き付いてきて号泣してる。
「梢恵さん、蓮君から電話があったんです。ノーマン先生のアシスタントに選ばれたって……私、嬉しくって……」
そうだよね。そのきっかけを作ったのは、理央ちゃんなんだから。
「今からカフェに行くって聞いて、私、ここの近くの英会話スクールに居たから慌てて来ちゃいました」
理央ちゃんの背中を擦りながら、胸がチクりと痛んだ。
そうだった。理央ちゃんも蓮の事が好きだったんだ。私が蓮を好きだって言ったらショックを受けるだろうな……
理央ちゃんに申し訳なくて、ギュッと彼女を抱き締めると、耳元で「梢恵さんに報告があります」って小さな声した。
「蓮君が……付き合ってくれるって。一緒にイギリスに行こうって……そう言ってくれたんです」
「えっ……」
「蓮君、今まで返事しなかったのは、どうしても忘れられない好きな人が居たからだって言ってました。でも、もう完全に吹っ切れたって。今は私の事が一番好きだって……」
「あ……」
もう吹っ切れた……? 今は理央ちゃんが一番好き……? そんな……そんな事って……
「私のイギリス留学が終わっても、別に日本に帰らなくてもいいだろ~なんて言うんですよ。一緒に向こうで暮らそうって」